さくらねこでんしゃ

※注意※ ここだけス卜ライダ一飛竜とワノレキュ一レが恋人同士

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老いる人(未完)






 ごう、と膨大な風が、分厚い空気の層となって、彼女の身体を包みこんだ。
 兜の翼が風を受けて、細かい気流を生み出す。細く高く、唸るような響きが耳に纏わりついている。
 異界は空を隔て、時空を隔て、混じり合うことはない。通常は決して降り立つことの出来ない場所だ。
 彼女――ワルキューレは、密かに異世界の扉を開く方法を編み出していた。 
 マーベルランドの守護神たる力の一部を使い、少々強引だが下界を見通す水鏡を、異世界への門として利用したのだ。
 下界で流れる一日は、天の城での時間にして、数時間ほどだ。
 マーベルランドの守護を司る者が、半日とはいえ持ち場を離れるのは如何なものかと思わないでもないが、彼女にはどうしてもやり遂げねばならないことがあった。
 
 腕を左右に広げている格好では、空気抵抗が大きく、目を開けていられない。
 手に持っていた剣を構える。鋭い剣の先端が空を切り裂き、降下速度は増していく。空気の流れを変えられて、細い紐のように雲がたちのぼる。小さな雷が、その後を追うように迸った。
 雲間を抜け、程なくして一面灰色だった視界が開け、大陸を一望することが出来た。
 日は高い。太陽の位置からすると、間も無く昼時だ。しかし、機械と鉄の都市は、陽光を反射しているにもかかわらず、どこか陰気な様子であった。
 精霊を重んじ、自然とともに生きてきたマーベルランドには、全土を巡っても、この都市一つ程の機械もないであろう。
 この世界のものは、ほとんど全てが機械仕掛け(それも恐ろしく精巧で緻密な)であり、彼の話では、人間の身体の一部さえも例外ではないということだった。 
 恐ろしいことに、彼の体にも、精巧な機械仕掛の爆弾がしかけられているという。
 命を奪うものではなく、その人の命の痕跡を消すものだと、彼は言っていた。
 それが本当なら、恐ろしい。魂だけが先に、深く暗い谷底に落ちてしまいそうな、そんな心地がする。
 記憶も、生きた痕跡には違いないが、人の記憶と寿命には限界がある。もし、彼がとうに死んでしまっていたのなら、痕跡を探すのには骨が折れることだろう。
 それでも、探す気でいる。
 最後の会話や、どんな暮らしをしていたのか、誰に何と呼ばれていたのか……。それを知ることが出来たなら、ずっと覚えて生きていくつもりだ。
 女神である自分が、やがて悠久の時の果てに老いて、死ぬまで、彼のことを覚えていたなら……彼と最期まで一緒にいられるだろう。
 姉貴分にあたる菫色の髪の女神には、事の顛末を話すと呆れられた。
 「そんな若い身空で、人間なんかに恋をして、操を捧げるつもりなのか? これから一体幾度、人間たちの世代が交代すると思っているの? もっと広い視野で物事を考えなさい」
 そう言われても、好いてしまったものは仕方が無い。
 厳めしい横顔や、苛酷な境遇の憂いを払うような強い眼差し、ふと見せる優しさに、ワルキューレはいつも胸を締め付けられるような心地がした。
 いつも孤独で、他の仲間達と慣れあおうとしないのは、性分だけではないことも理解した。かつて心を通わせた戦友は確かにいて、彼らを尊敬するが故に、新しい仲間には心を開かないでるのだと。
 最初は、彼の運命に、女神としての慈愛の心が揺さぶられているのだとばかり思っていた。
 胸の内に起こる苦しさが、憐憫によるものでないと気づいたのは、それから幾日も経たなかった。

 彼女の胸は久方の逢瀬に高鳴っている。高鳴りながらも、彼の死を予感して苦しんでもいた。だからといって、最初に彼に何を言おうか、考えるのをやめられはしなかった。
 都市から少し離れたところに、開けた場所を見つけた。古くて使いものにならなくなり、打ち捨てられた機械は錆びつき、青草を蔓延らせていた。僅かながら、花も咲いている。

 (近くに人はいないし、降りるにはいい場所だわ)

 兜の羽で風を静かにいなし、天の衣を地上人の服装に変えて、ワルキューレは地に降り立った。
 
 
 物々しい機械に囲まれた都市では、人の賑わう市場でも、どこか暗く陰気な雰囲気がある。
 誰もが下を向き、言葉少なに、用事を済ませ足早に帰っていく。
 男も例外ではなかった。他の人と違うのは、帰るべき家族を持っていないところだ。
 彼は物静かだが、伏せられた瞳には時に鋭い光を宿し、身のこなしは素早く、雑音を立てなかった。
 細身ながら、鍛え抜かれた全身の筋肉は、齢三十を超えても維持され、高い身体能力を窺わせた。
 視界の端に、何か光るものを認めた気がして、男は上空を見上げた。
 人の大きさほどもある発光したものが、廃棄物の置かれた野原の方向へ墜落していく。
 衛星の事故か? それにしては、煙も出ていないようである。
 あるいは戦争の前触れの、爆弾が投下されたのか? 全方位に目を向けても、敵機らしき機体はない。
 
 他の人は飛行物体をさして気にも留めず、再び地面や自分の前方に視線を戻した。
 空を見ているのは、男だけだった。しばらく呆けたように光を見つめた後、それが落ちていく方向へ猛然と走り出した。
 周囲は突然起こった旋風に驚いて、ようやくそこにいた男が消えているのに気づいた。
 久々に全盛期と同じ速度で走ったが、ものの3分で体が悲鳴をあげはじめた。大腿はあまり高い位置まで上がらず、前のめりに倒れそうになるし、息を送り出し吸い込むことすら混乱しそうだ。
 でも、急がなければ。
 あれは神の降臨だ。おそらくそれを知っているのは俺だけだ。
 人の間を縫うように走り、壁に手を付きながら跳躍する。若い頃では汗ひとつかかなかったであろう、こんな道での疾駆は。
 「野を馳せる者」などと名乗っていたことを、今となっては誰も信じまい。
 狭い路地裏を抜け、野原につながる階段を、精一杯の速さで駆け上がる。
 乱れる呼吸をどうにかなだめながら、男は過ぎた年月の長さを感じた。あの日から、もう十数年の月日が経った。
 見る影もない俺を、彼女は見つけ出してくれるのか。そういえば今日は、無精髭もそのままだ。
 激しい運動以上に、ある期待のせいで、心臓は早鐘のようになっていた。

 光が落ちたと思われる草原についた。男の他に立っている者はどうやら野次馬たちのようだが、それも疎らだ。
 草原の中心に誰かいる。服装や背格好から、若い女性のようだ。彼女を中心に草が放射状になびいている。
 彼女はいたって普通の娘のようだった。長い三つ編みにしている金髪だけが、暗い雰囲気の都市では異質なほど美しく、目立っていたが……。
 別段、変わったものが落ちているわけでもなく、落ちてきた光は気のせいで、あの娘はそれを確かめた第一発見者なのだろう。
 金やめぼしい品目当ての野次馬たちは興味を失って次々にその場を去り始めた。
 彼女はまだ動かなかったが、その姿を見失わないように視線を据えて、男は、彼女に近づいて行った。
 咽喉の粘膜が乾燥して引っ付いているのを、咳払いではがす。
 少し離れた場所にいる彼女にも聞こえるように、まだかすれている声を張り上げた。

「ワルキューレ。」

  
 その一言で十分だった。忘れもしない、美しい金髪の三つ編みが揺れて、その顔がこちらに向く。
 懐かしい双眸は驚きと、喜びに満ちていた。

「飛竜さん。」

 言葉を発するのとどちらが早いか、草に足を取られながら彼女は走り出した。
 自分の名を呼んだ彼もこちらへ駆け寄ってくる。
 彼に会えたら真っ先に言おうと考えていた言葉は、涙とキスで忘れてしまった。

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  1. 2013/05/24(金) 02:54:54|
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